ヴァイルがウチにやって来た [13] 暴漢乱入 Nr.1

ここにWという男が居た。
20年も前になるだろうか、彼が大学を出たばかりの頃、ある店で私がワインを勧めた事がきっかけでこの業界に入ってしまった人物である。

彼の究極の目的はワインを造る事…なのだが、大学は畑違いの水産系学部だし、ワインの知識・経験はまだ少なかった。

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しかし、馬鹿げたバイタリティーですべてを踏破してきた。
職の遍歴は、輸入業者・小売業者・製造蔵元の営業を経て晴れてこの蔵元の製造を手伝わせて貰える予定だった。

が、偏った性格を嫌われ、製造に携わる事を拒まれた。
失意の内に彼は、再度ワイン小売業者に戻った。

故郷で、ワイン造りが始まり、人材を募集している! という情報を得た時、そんな彼の気持ちを知っていたので、すぐに伝えた。

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彼は、電光石火、小売業に辞表を出して故郷に戻って来た。
そして、選考にパスして、ワイン造りを始めた。

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道は遠かった。
思い通りの味香はできなかった。
情報と勉強を繰り返し、テクニックを蓄積し、やっとワインを造った。

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しかし、故郷を有名にしたこのマスカット・オブ・アレキサンドリアはワインにするには難しい葡萄に違いなかった。
深い経験を持つ人から、指導を得た上に、心血を注いだものの、初年度のワインは余り出来が良いとは言えなかった。

そして次の年、満を持しての再挑戦。
肩に力が入っていた本人とは裏腹に天候は曇りが多い弱含みだった。

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が、これが幸いして、優しい味わい、相応のマスカット香…と、造った人間の思いとは少し控えめに纏まる結果となった。
力を入れ過ぎていた本人が、完成品を飲んで、瓢箪から駒が出た…と感じたと言う。

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これからどんどんワインを造り続けたいと願うWだったが、根をつめ過ぎて体調不良となり、ついには倒れた。
体に僅かながら障害が出るレベルまで悪化し、リハビリが必要となってしまった。

再びワイン造りを行いたい…と念じながら彼はリハビリの毎日を続けた。

それから数年、彼はなんとか普通に仕事ができるようになった。
元来彼はドイツ・ワインに憧れていた。
その究極の姿…ヴァイルが来る!という事で、このセミナーに参加していた。

そんな彼が、大胆不敵にも
「自分の造ったワインをヴァイルに飲んで貰い批評を求める」
…と、とんでもない事を言い出した。
私は最初、当惑しながらも断った。

しかし、どうしても一言が欲しいと言う。
彼にとっては神に等しい存在なのである。
その真剣な目についホダされて、引き受けてしまった。

        
   ヴィルヘルム・ヴァイル
   ラインガウ リースリング QBA[2002]


ただし、ヴィルヘルム・ヴァイルとそのスタッフに ズゥズゥしくも自分のワインを持参し、批評を求める者が居るが、苛められるのが好きな奴なので、
「まぁ頑張ってるね。でも道はまだ遠い」
とだけ言ってくれ…とお願いした。

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せっかくのドイツからの賓客に失礼があってはならぬし、Wの造るワインは、正直言ってまだまだ道は遠い…
と言って良いレベルだと感じていたからである。


[To Be Continued...]


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