ヴァイルがウチにやって来た [16] 振り向いた笑顔

彼に、私の生まれ年を言うと、びっくりしていた。
やはりアホな人間は、少々若く見えるらしい。

何せヴィルヘルム・ヴァイルは、1963年生まれの43歳なのだから私が年が上には見えなかったようである。

セミナーが終わり、会場で挨拶を済ませ、外に出た。
見送りに出た我々ともう一度挨拶を交わしている時、店の前にある看板ポールの横の葡萄を見つけた。

weil_16-1.jpg

お約束のジョーク、
“This is my Vinyard”と言うと
看板ポールに巻き付こうとしている葡萄、そしてハート型に形成されている葡萄を見て微笑んでいた。

彼とすれば、販売量の少ない田舎のワイン屋に顔を出してもメリットは少なかったに違いない。
しかし、彼は、人数の多寡ではなく、思いの強さに感じて来訪してくれたんだ…と思う。

例え成果は少なくても、彼はベストを尽くす。
そういうタイプの人間であるのが浮き彫りになった。

当然、それはワイン造りの様々なシーンでも同じだろう。
面倒だから、とか、苦しいから…と言った事は彼の作品にはあり得ない。
それが今回の出会いで分かった。

朝は東京、そして大阪で夕食会という予定だった。
その大阪からの足を倉敷まで伸ばしてくれたのだ。
大阪から新幹線で一時間、そして在来線で30分。
そしてまた大阪にとんぼ返り。

ビジネス・マンなら当たり前…かも知れないが、頂点に居る者がそう簡単には動きはすまい。
効率を考えれば無駄な行脚だから。

しかし彼は来てくれた。
ウチに来てくれたのだ。

weil_16-2.jpg

その心意気、造られた作品楽しみにながらの解説、彼のワインを敬愛する者にとってこんな幸せは無い。

bye.jpg

去って行くヴィルヘルム・ヴァイルの背中が見える。
彼のワインを飲む…という事は、もしかしたら進み続ける彼の後ろ姿を見続ける事なのかも知れない…
と思った。

と、一瞬だけ振り向いた。
その笑顔を見て、いい年をして手を振ってしまった。
その笑顔が、そして一瞬振り向くという些細な動作が、きっとスタッフも、流通業者も、販売者も、そして消費者さえもすべてを味方にしてしまうのだろう。


キ-ドリッヒャ- グレ-フェンベルク
 リ-スリング アウスレーゼ
 750ml


心に焼き付いたその笑顔は、私にとって一生の宝。
今宵、東洋の、田舎の、小さなワイン屋の主人が彼の造ったワインをグラスに注ぎ、妻と共に彼の前途を祝福する。

乾杯!


[To Be Continued...]


<<前へ | 次へ>> | 一覧 |



Copyright (C) 2000 Net Contents, Vin LePin Kurashiki S.A.R.L.
  .