ヴァイルがウチにやって来た [09] 氷菓 Nr.2

参加者は、魔法使いヴァイルの巻き起こす嵐で未知の海で彷徨う船となる。

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その液体に身を任すしかない。
経験のある者ほど前に踏み出せない。
存在が分かれば分かるほど、恐怖すら感じてしまう。

会場全部に行き渡らせた後、私は自分用のグラスに注いで後ろに隠れながら貪った。

色合いは淡い黄金色。
活気に満ちた力強さ。
洋梨、アプリコット、パイナップル、マンゴー、ライチ…
風味が凝縮しながら渦を巻く。
蜂蜜、ハーブ、ミント、エステル系…
甘くジューシー、かつ狂おしいほどにセクシー。

キートリッヒャー グレーフェンベルグ
  アイスワイン[2004]


凝縮した風味、力強いボディ。
まるで噛めるような存在、それでいて濁りのない透明感。
均整が取れた美しい姿。
止めどなく長い余韻、終わりがないようにさえ感じられるアフター。
圧倒的な力。

間違いなく驚異的に旨い。
が、若過ぎる。
若い時のピークさえ少なくとも2〜3年後から始まるのだろう。
本当の熟成を見せるのはきっと30年、そして永遠の命を持つ…と言われるこのアイスワインならコルクを打ち変えていけば100年ワインとなるのは容易だろう。

仕事中、私は、どんなワインも吐き出す。
ティスティングの基本であり、元来それほど酒が強くない私はそうする事で、より利き酒を確かなものとして来た。

例外は、蔵元に対峙している時。
どんなに酒に弱くても、飲み過ぎで苦しくても飲み干すようにしている。
それが造り手に対する敬意となるからだ。

が、そんな小手先の愛想など必要ない。
このワインは吐き出せない。
この液体の魔力に陥れられたかのように
この液体へ対しての当然の反応のように
喉から下へと飲み降ろしていた。

嵐は液体から湧き起こるだけではない。
私の口内・喉に配置されたセンサーから脳への神経が、情報量の激しさでオーバーロードしている。

喉から下に降ろした後、頭の中で情報が整理できるようになるまで数分間のクール・ダウンが必要だった。

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   一瞬動けなくなった…

これが進化したヴァイルの答か…。
この領域に達した者に対して、賞賛以外の言葉は無意味となる。

主催者側という立場を放りだしても、ヴァイル本人に言わねばならなかった。
「このワインを吐き出す事はできなかった」と。

彼は、我が意を得たり…という顔をしてくれたように思っている。

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このワインは、私の宝として、特別セラー・ドイツ版に展示する事にした。

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私の究極のコレクションにまた1本、
スーパー・ワインが加わった。



[To Be Continued...]


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