鮨・東田での食事がスタートした。
それぞれにワインを合わせていく。
【前菜】ふぐの白子の豆腐
人によってはこのお料理にワイン…
というのは変に感じるかも知れない。
日本酒なら簡単、それも間違いない。
だけど、障害物だらけに見える中で、
レーザー光線が突き抜けるように
一筋の糸が結びつく事がある。
その、コネクト感、そして共振を味わえた時の感動は、
当たり前の世界に安住していたのでは味わえない。
まして、目の前にワイン造りの本人、
傍らに腕の切れる料理人がいるのだ。
淡泊ながらも素材の味わいを伝える豆腐に
深みと旨味を与える白子を練り込んでいる。
アクセント的なワサビが添えられ
ワインとは難しいと言われる醤油。
登場するのはこのワイン。
ドメーヌ・ポール・マス[2005]
シャルドネ-ヴィオニエ
これは、巧く合った。
究極ではないにせよ、相応以上に合っている。
ワインと、料理の優秀性が巧く噛み合った取り合わせ。
しかし問題は、次だ。
【刺身】さわら、しまあじ、ひらめ
これは難しい。
これさえクリアーできれば、ワインはもっともっと
和食に取り入れられていくだろう。
一番の難物、ナマ魚の典型、“刺身”。
ワインとは大きな川で隔てられた存在なのだが、
この川に背を向けていてはワイン屋の将来はない。
イタリアンのお料理とワインが、すべて合ってしまうのは?
それは両者の間にオリーブ・オイルという橋が架けられるからだ。
ナマ臭さが際だつ「ワイン+刺身」に
臭みが消え、脂の乗った食べ物と感じられる
掛け橋はないのか…。
最も簡単な手法は、イタリアンを模して、
刺身にオリーブ・オイルをかけてしまえば良い。
しかし、料理人を目の前に
そんな失礼はできない。
家庭でカルパッチョ…というなら、この手法もアリかも知れないが、
人間として許されぬ行為になってしまう。
ならば?…
って考えるほどの事はなく、刺身の付属物=ワサビを使えば良い。
ワサビは、ハーブである。
オリーブ・オイルと同様に、架け橋になれる存在である。
そこで、しまあじの身にチョンッとわさびを載せ
同じワインで挑む!
危ない感じの橋ながら、
何とか渡り切る事ができたような気がした。
が、ワインを変えてみた。
ル・ニ・ド・マ
ミュスカ・セック[2005]
ドメーヌ・ポール・マス
文句なくこれは合う。
刺身にワサビを添え、飲むならばこのワイン。
マスカット香の華やかさが、ワサビの芳香と溶け合って
面白いハーモニーを奏でる。
余韻の中の臭みも感じない。
刺身にはこれ!
ってポール・マスに向かって
自信を持って主張した。