土壌(というより石)の標本を
セミナーの参加者達に回覧させたフーバーさん、
「見るだけでなく、臭ってみて欲しい」
と言った。
ヘックリンゲン村の白っぽい土の後に回って来た
赤っぽい『ヴィルデンシュタイン』の土を臭った時、
その意味が分かった。
地面から離れ、乾いた状態の武骨な魂。
香を嗅いだ瞬間、土や埃、そして鉄…を感じた。
が、もっと奥深い何かが強く語りかけてくる。
ヴォージュ山を越えてきたシトー派僧侶達が
目を付けたというベーズ修道院とそっくりの土壌。
彼らはこの村に、テネンバッハ修道院を建てた。
そこを拠り所にして、周囲を探索、
少し離れた場所に宿舎を建設した。
現在フーバー醸造所のある、まさにその場所。
なぜ離れた場所に建てたか?…それは、
最も注目すべき土壌があったから。
その土地を開墾し、得意のテラス状に仕立てた。
この区画、かつてはWillistein(ヴィリーシュタイン)と呼んだが、
まだ畑として、現在のワインアトラスには登録されていない。
しかしフーバーさんは、よりレベルの高い造りが
可能な区画として独立させている。
その名は『ヴィルデンシュタイン』。
700年の時を越え、畑を切り開くシトー派僧侶達と、
切り立った壁面に沿う小径に立っている自分の姿、
降り注ぐ太陽と、息をする葡萄の葉、
そして地面の匂い…
すべてが混じり合った空気を吸い込んでいるような…
この鉄分をしっかりと含んだ赤い土が発する香は、
そんな想像を掻き立ててくれる力があるように感じられた。