高品質なワインを造るとすれば、『樽』を避けては通れない。
それも力押しのパワフル・ワインでなく、
繊細・微妙でエレガントなピノ・ノワールを中心に、
高級ワインに対応させる事を考えるとすれば…
当然ながらフランス産、アリエやトロンセの樽に思い至る。
しかし、それらの樽にフーバーさんは完璧には満足できなかった。
なぜならば、最高品質の、同じ樽を同じ時期に10樽注文して
ワインを入れて育ててみたら、一つ一つの味が違ってしまったからだ。
コルクと同じく、化学工業製品ではないから、
一つ一つの材質が均一ではないのだ。
それよりも、この樫材を天日干しする時、
一列で並行に並べる訳にいかないので
組みあげて乾燥させることになる。
すると、雨の掛かり具合と、下からの湿気の差が出て、
乾燥の進み具合に差が出てしまう。
その樫材を樽にしたとすれば、香と味の差が出て当然なのだ。
そこで、アリエの樽材を購入して、醸造所の裏側で
自分で乾燥させる事にした。
それも原材料を低く積み、上下の差が極力小さくなるようにした。
さらに、数ヶ月毎に上下を組み直し、
乾燥の度合いの均一化を図る…という手間をかけた。
「これで味香の差は小さくなるはずだ」
という彼の言葉に、会場から
「動瓶のように手間をかけているんだ」と、感嘆の声があがる。
素材の一つ一つを見直し、吟味し、最高の状態に持ち込む。
乾燥させる樽材の低層積み、そして組み上げ直し…
「毎年小さな改革を繰り返し、
その積み重ねで私のワインができる」
このフーバーさんの言葉は、誰の言葉より重く感じられた。