シャトー・マルゴー その1
ラフィット、ヴェルサイユを席巻
さて、ムートンに沿って現代まで辿って来たが、再び
ルイ15世の君臨するフランス王宮へ視点を戻したい。
策略を巡らし、リシリューの持ってきたラフィットを使って、
コンティ公のブルゴーニュ・ワインをベルサイユから
追い出すことに成功したポンパドール夫人。
が、ルイ15世以上にラフィットに夢中になってしまった。
いや、もうほとんど狂ったと言って良いほど。
ルビーがそのまま酒躯になったような魅惑的な色、
いつまでも残る熟れた香に魅了され続けた。かくして、
ポンパドールの催す晩餐会ではラフィットしか飲まれなくなった。
それまで幅をきかせていた、ブルゴーニュ・ワインは、
彼女の食卓からも、ナイト・テーブルからも姿を消してしまった。
策略や意地などでなく、ただただラフィットの味に惹きつけられたのだ。
ポンパドールに倣ってどうか、ラフィットを飲み、入手する事が、
フランスの貴族としての新しいステータスとなった。
そして、ヴェルサイユに集う貴族が皆、しばらくは
ラフィットしか飲まなくなる現象が生じた。
口紅もボルドー・カラー、ドレスもボルドー色が流行となり、
宮殿は赤い色に埋め尽くされたのである。