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ヴァイルがウチにやって来た [14] 暴漢乱入 Nr.2 |
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どうしても、ヴィルヘルム・ヴァイルに飲んで貰い、批評が一言欲しい!と言うW。
一方、答えまでも準備して、万全の体勢で丸め込もうとしていた私。
セミナーは徐々に進んでいき、ロバート・ヴァイル醸造所の醸造法や方針が分かってきた。
それは同時に、ヴィルヘルム・ヴァイルの人柄を浮き彫りにする事でもあったように思える。
彼が語る言葉には迷いがなく、そして嘘も無い。
輝くゴール…それは逃げ水のように遠くに在るのだろうが、…それを目指して一本の道を進む者の姿が見えた。
そんな哲人、成功者、セレブに挑むW。
彼こそは、全く逆の存在と言わねばならないだろう。
共通するのは、良いワインを造りたい…という心だけである。
Wの造ったワインをティスティングさせるのは、余りに申し訳ない…と感じていた私は、ヴィルヘルム・ヴァイルの前に並べられた2つのグラスに少なめに注いだ。
テキストは、マスカット・オブ・アレキサンドリアの辛口と甘口である。
ティスティングが始まった時、Wは居ても立っても居られず、つい前へ出て行こうとする。
アイドルに群がるファンを押し戻すごとく、 私は遮る。
Wは言う。
「私はドイツワインに憧れております。
その美しいスタイルを夢見てワインを造りました。
リープフラウミルヒに到達できれば…と思います」
するとヴィルヘルム・ヴァイルは、
「このワインは違う…」
と言った。
残念だなぁ。ドイツワインの優しい味わいとは違うって。
でもそれはしょうがないよ。…と私は思った。
Wの顔にも陰りが見えた。
ヴァイルは続けた。
「…リープフラウミルヒとは違う。
ちゃんと葡萄品種の特性を生かし、この土地の風味を引き出している」
なんと! リープフラウミルヒより良いワインだと言おうとしているんだ。
まぁ、お世辞で言ってくれるのは分かるけれど、でもそう言ってくれると嬉しくはある。
ここまで言ってくれればもう十分…と
Thank you ,Your Tasting Report Is Excellent!
と言って、終わりにしようとした。
すると、ヴィルヘルム・ヴァイル氏、
すっくと立ち上がり、真剣な顔で続けた。
「このワインは、努力が良く分かる。
そしてテロワールを感じさせる。
この味は、心の籠もった造り手のものである。
リープフラウミルヒでは感じることのないものだ。
このワインは私の心を動かしている。だから
見て欲しい、ちゃんとグラスが空になってる」
と、言ってくれた。
実際、少な目に注いだとはいえ、2つのグラスは空いていた。
これを聞いたW、天にも昇らんかな…の勢いで、握手を求め、ずぅずぅしくも自分の造ったワインのラベルにサインして貰った。
彼は、このワインを家宝として、次のワイン造りの糧とする… と言っていた。
サインして貰ったワインを横にして御満悦のW
彼の横顔が、本当に久しぶりに輝いて見えた一瞬だった。
ヴィルヘルム・ヴァイル、20歳台でロバート・ヴァイル醸造所の社長に就任、現在はVDPの会長でもある。
ロバート・ヴァイル
リースリング QBA
その肩書きは、決して伊達ではないようだ。
[To Be Continued...]
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